つい最近「アマルティア・セン 経済学と倫理学」(鈴村・後藤)の輪読を友人と始めました。以前から気になっていた「メイの定理」の存在意義がようやく分かったので記録しておきます。
メイの定理は単純多数決についての定理
メイの定理とは、ざっくり言うと
「個人の選好関係が完備性・反射性・推移性を満たす(選好順序である)とき、単純多数決ルールは、
①広範性 ②匿名性 ③中立性 ④正の感応性
を全て満たす唯一のルールである」というものである。
4つの公理
それぞれの公理を簡単に説明する。
①広範性:
各個人は論理的に可能ならどんな選好順序を持ってもよいという性質である。
②匿名性:
誰が選好を持っているかは結果に関わりないという性質である。
③中立性:
選択肢の名称は結果に関わりないという性質である。
④正の感応性:
Aという個人的選好の集まりを集計した時にxをy「以上に」社会的に好んでいるとする。
Bという別の個人的選好の集まりで、誰もAの場合と比べてxを不遇にしておらず、かつある1人はxを優遇する選好に変えていれば、Bではxをyよりも厳密に社会的に好む、という性質である。
単純多数決≠多数決
ここで注意すべきなのが、「単純多数決ルール」の定義である。多数決というと、クラスの学級委員決めや小選挙区の投票のような
「沢山の選択肢の中から一番自分が好むものを申告する→その中で最も多くの票を獲得した候補を社会的な決定とする」
ルールを思い描きがちだ。しかし、メイの定理においては
「沢山の選択肢の中から二つを取り出し、その二つについて自分が好むものを申告する→その中で一方より多くの票を獲得した候補を社会的な決定とする」
というスタイルの多数決が想定されている。前者の私たちがよく使っている多数決は「比較多数決による単記投票法」と呼ばれ、後者こそが「単純多数決」と呼ばれる。
要は、選択肢集合Xには選択肢x,y,z,wどれも含まれているかもしれないが、今回は「xとy」や「zとw」についてのみ社会的な優劣関係を決める、ということだ。
メインメッセージ:2択なら多数決は有用
自分はここを前者の意味の多数決と捉えてしまっていたので、「3択以上でも多数決ルールはよい点をもっているのか」と誤解してしまった。しかしなんのことはない、「2択なら多数決は有用な制度ですよ」というのがこの定理のメインメッセージであった。
もちろん3択以上なら、「比較多数決による単記投票法」ではサイクルが発生するおそれがあり(=社会的意思決定が推移性を満たさない)、よくできたルールとは言い難い。これは次回以降の輪読で扱っていくだろう。
記号は大切
しかしここまで書いてきて鈴村さんの表現力の高さに本当に感服しました。定理を記号を用いずにしかも文章で説明することがここまで大変なこととは。
やはり難しいことは難しい表現を使わないと正確には表現できないのですね。集合論の勉強頑張りましょう。