今、スピッツが熱い。スピッツが熱いのである。主にどこで熱いかというと、私の心の中で熱いのである。
実は先日、日本武道館で行われたスピッツの30周年記念ライブに行ってきた。それまではCMくらいでしか聞いたことがなかったのだが、たまたま友人がチケットをとってくれたので行ってみた。
その時は「へー結構ロックっぽい曲もあるんだなぁ」くらいにしか思わなかったが、家に帰ってシングルベストを流しているうちに、何曲か「いい曲だな〜」と思うようになり、通勤中聞き始めて「これもいい曲だな〜」と好きな曲が増えていき、「わぁ〜全部いい曲じゃん」と、スピッツの世界に引き込まれてしまった。スピッツの浸蝕力、恐るべし。
そのうちに私はとんでもないことに気づいてしまう。
...あれ、スピッツ、「掟」多くね?
定型句と「掟」
どんなアーティストにも定型句というものは存在する。ART-SCHOOLの「子宮」、凛として時雨の「マゾヒスティック」、村上春樹の「あるいはそうかもしれない」。
スピッツの場合は「掟」だった。
「掟」というのはなかなか歌詞で登場することのない言葉だ。堅い印象を与えるし、使いにくい。だからこそその耳慣れないフレーズが記憶に残る。
「掟」登場歌詞
実際に「掟」が登場する歌詞を見てみよう。
・夏の魔物
幼いだけの密かな 掟の上で君と見た
夏の魔物に会いたかった
・裸のままで
はがれはじめた嘘について レールの上で考えたのさ
小さなズレさえ許されない掟なのに めぐり会えたよ
・青い車
冷めた僕の手が君の首すじに 咬みついてはじけた朝
永遠に続くような掟に飽きたら シャツを着替えて出かけよう
・探検隊
心をひとつにし 掟を蹴り破れ
果ての果てを目ざせ
こんなに「掟」が出てくる。草野マサムネ「掟」大好きかよ...
二種類の「掟」
ここまで4つの曲の「掟」を見てきたが、この「掟」は二つのグループに分けられると思う。
一つのグループは「青い車」と「探検隊」である。こちらは至って普通の意味(すなわち、「ルール」「共同体において守るべき規範」という意味)で「掟」という言葉を使っているように見受けられる。
「掟に飽きる」、「掟を蹴り破る」という表現から、つまらないしがらみから抜け出す、くだらない規範を破るという、「掟」に対するネガティブなニュアンスを十分に感じ取ることができる。
しかし、もう一方のグループ「夏の魔物」「裸のままで」においてはこの意味では通じない。むしろここでは「掟」を肯定的に捉えているように感じられる。
例えば「夏の魔物」には、「掟の上で君と見た、夏の魔物」とある。ということは、仮に「掟」がなければ、そもそもその頃(幼い頃)夏の魔物を見ることはできなかった、と言えるのではないだろうか。
また「裸のままで」には、「小さなズレさえ許されない掟」なのに「めぐり合えた」とある。そして時はゆっくり流れ出すものの二人は裸のままでここにいるのだが(サビ歌詞参照)、その前の「めぐり合えた」喜びを増幅させているのは明らかに「掟が、小さなズレさえ許さないほど厳しいものだったから」だろう。
つまり、「裸のままで」においてもこの歌詞の主人公は「掟ありき」で見つめたり歩いたり(歌詞参照)しているのであって、「くだらない掟を破ろう」なんて尾崎豊じみたことは全く考えていない。
むしろ、「厳しい掟なのにめぐり合えた」ことに価値を感じている主人公にとって、掟を無視することは自分の喜びを無に帰すことに等しいのだ。
まとめ
スピッツには「掟」という歌詞がよく登場する。「掟」の使い方には二種類あり、「ネガティブな掟」と「ポジティブな掟」が存在する。そして、後者の「ポジティブな掟」こそがスピッツの言葉遣いの面白さを表していると言えるのではないだろうか。
まだまだスピッツ初心者なので、他にも「掟」ソングがあったらご連絡ください!